SAS──Special Ability Secret allied force──第一章・1

 

 

 

 

 

「いやー!!止まって〜〜!!」

 

 

そこはガルシア国首都アルトシェルから数km離れたところにある

アージュと呼ばれる小さな村の外れにある草原地帯。

 

今日も穏やかな時が流れていたその村に突然悲鳴が起こった。

当の悲鳴をあげた少女は乗っていた生き物に降り落とされ、

その勢いで目の前に積み上げられていたワラの山に放り投げだされた。

 

「だから気を付けろと言っただろうが!」

 

ふり落とされた少女に向かい、この生き物の飼い主の

中年男は叫んだ。未だにワラに上半身を突っ込んでいる少女は、

そこからなんとか上半身を起こし、息を荒げながら涙目で男の姿をとらえた。

 

「ご、ごめんなさぃ…………」

 

ワラに突っ込んだときに口に入ったそれにむせながら謝罪する少女。

この国では珍しいピュアピンクの軽やかな髪を肩下くらいまで

伸ばしていて、瞳の色は澄みきった青空によく似たインディゴホワイト。

白く透き通った肌に肩を出した形の柔らかい生地で出来たゆるい

サイズの淡い紫色の服、下は穿き慣れて色が薄くなったデニム生地で

こちらもゆるやかにできていて膝下でまくってあるジーンズ。

 

ベルトにかけてある右側のホルスターには短剣、左側のホルスターには

拳銃が入っている。そして、オーダーメイド品であろうサンダルは

踝を固定する部分も付いており、持ち主の足にしっかりフィットしている。

 

少女の名前を、六陣 蒔唯(ろくじん まい)という。

 

 

 

「何やってんだ」

 

 背後から聞こえた声に振り向く六陣。その視線の先には一人の少年がいた。

 短いとも長いともとれない長さの髪は軽く外側に跳ね、

そのクールグレイに太陽の光を輝かせている。そしてそれよりも

濃いクールグレイの瞳に呆れの色を覗かせている。

上は紺色のVネックで七部袖のアンダーシャツの上に

ノースリーブ型のベストを着ていて、下はデニム地でゆるいサイズの

ジーンズを膝下あたりまでまくっていて、太ももの両サイドに

くっつくようにしてベルトから引っ掛けて垂れ下げる特殊な形の

ホルスターを装着している。少女とは逆に右側に拳銃、左側に短剣を納めている。

 

 少年の名前は、時雨 薫(しぐれ かおる)という。

 

 二人は特殊能力秘密連合軍──通称SASと呼ばれている

ところに所属している。SASは、世界の中でもガルシア国に

のみ存在する特殊な連合軍のことである。身体年齢に比べて

精神年齢の発達が通常の倍をも誇り、そして通常の人間では

持ち得ぬ力を持つ者のみが所属していて、その存在は軍事の裏に

隠れている。

軍では手に追えないこと、例えば特殊な任務や、

その能力が無ければなし得ないことなどを基本的に請け負っている

謎の多い機関で、六陣は特殊部隊班速報部第一部署に所属しており、

時雨は機関内のトップを取り巻く12人の幹部のうちの一人である。

 

 何故その機関に所属する二人がこの村にいるのかというと、

それは上から来た任務のためだった。任務の内容は「東部地方を偵察し、

現地で入手した重要な情報を2時間以内に速報部第二部署に

随時報告せよ」というものだった。そもそもその仕事内容は

六陣達速報部の第一部署が行う仕事内容であり、そこに重要人物である

幹部生が関わってくることは皆無といっていいほど無いことである。

 

しかし今、第一部署は人手不足となっており、そこに派遣されたのが

他でもない幹部生である時雨だった。何故幹部という立場にいる人間が

特殊部隊班に── 一時的なものではあるが ──配属されたかは、

六陣にとっては全くの謎であったが、仕事の効率的にはとても有難い

ことなので素直に受け入れ、普段ツーマンセルで行われる

情報収集に二人が駆りだされたわけだった。

 

 

「え、えへへ……見かけない生き物だったから、

ちょっと撫でていたら歯止めが利かなくなって…」

 

「それで欲望に駆られ乗ってみたらコイツが暴走して

そのままワラの上に放り投げだされた。と言いたいんだな?」

 

冷や汗を掻きながら必死に言い訳をしようとする六陣に、

時雨は米神に青筋を浮かび上がらせながら腕組をし、

仁王立ちになりながら未だにワラの中から出てこようとする

気配の無い六陣を見下ろした。

傍らには先ほど六陣を

振り落とした犯人、ガルシア国にのみ生息するといわれる

精霊鳥の一種、百速鳥(ひゃくそくちょう)がいる。

そしてその傍に、この百速鳥の持ち主であろう先ほどの

中年男性が近づき、そのまま愚痴を溢しながら鳥を引っ張って行った。

 

「う、うん」

 

「バカかお前は!!俺達ぁ何のためにここに来ていると思ってんだ!!」

 

「は、はい!任務のためでした」

 

 ついに痺れを切らせて怒鳴った時雨の言うことは正当すぎて、六陣はぐぅの音も出なかった。

 

 

 

「とりあえず特にこれといった情報は無かったが…、気になる事件があった」

 

やっとのことでワラの山から抜け出してきて、全身についた

それを払っていた蒔唯は、時雨が声を潜めて話し始めた様子に

じっと耳を傾けた。それを見て時雨が話し始める。

 

「最近このあたりの農家で栽培している薬草がよく盗まれているらしい。

痕跡からして野生動物ではなく、人によるものだそうだ。

だがそこまで大きな被害ではないから見逃しているらしいが、

その薬草がこの村でしか自生しないものらしくてな…。密猟者の疑いもある」

 

「じゃあこれから聞きこみを始めるの?」

 

「そうするつもりだ。一旦村の中心部まで戻ろう」

 

「うん」

 

 そう言って、二人は少し離れたところにある村の中心部へと目を向けた。

 

 

 

 

++++++++++++++++++

 

 

 

 

「それにしても平和ボケしたトコだよな。薬草がちょっと盗まれたくらいの事件しかないなんてよ」

 

「薬草って言ったって盗みは盗みだし、珍しい薬草なら尚更だよ」

 

 それに、と続けながら蒔唯は街の中を見渡した。

人々が忙しそうに街の中を歩いている。

だがその顔には苦労や悲痛は浮かんでおらず、皆穏やかな表情をしている。

 

「平和ボケしてるってことは良いことじゃない」

 

 そう言いながら軽くスキップをする六陣に、時雨を呆れ顔になりながらも

口元だけを緩ませてそうだな、と言う。日々の日常から離されたところで

暮らしている自分達とは違う、穏やかで優しい顔を見ていると無償に切なさを感じる。

 

「こらぁ、待ちやがれ!!」

 

二人が歩いていた道の後方から大きな怒鳴り声が聞こえ、

六陣の右脇を一人のこどもが走っていき、すぐに街角に消えていった。

それを見て六陣は時雨と顔を見合わせてこどもを追いかけ、

時雨はそのまま歩き続け前方にいる怒鳴り声を上げた中年の男の元へと歩み寄る。

 

「盗まれたのか?時期に戻ってくると思うぞ。連れが追いかけてる」

 

その声を聞き、俯きながらブツブツと独り言をごちていた店の主人は我に返り、顔を上げた。

 

「え?お、おう。そりゃあ助かるぜ。ありがとよ。だが連れてくる必要はねぇ。

 ……軽く説教しといてくれないか」

 

 そう言って複雑な顔を隠しきれずに笑う男に今度は時雨が眉をひそめた。

 

「……さっきの、知り合いだったのか?」

 

 すでにいなくなった後の通り道を見つめながら時雨が呟く。

その言葉に男は一瞬反応を示すが、言葉を濁らせる。だが、決心がついたように話し始めた。

 

「この村のモンなら大抵知っとるよ。あの子にゃあ身寄りが無いんだ。

一年前に、両親が…ちょっと、な。盗む事がいけないことは本人も分かっちゃいる。

それにあんな小さいこどもなら、食うもんにも困る。

村のみんなは怒っちゃいるが…勿論俺だって盗みはいけねぇと思っとるがこればかりはな…」

 

 そう言いながら立ち上がり、店の中へ戻ろうとする男を時雨は

黙って眺めたが、じきに六陣の後を追うために二人が向かったであろう

方向へと歩き出した。すると近くの店からコートを着てブーツを

履いた女が出てきた。帽子を深く被っている。表情は伺えないが、

耳元のチェーンのピアスがキラリと光った。

 

「(右足の腿に短銃一丁と左手首付け根に仕込みか…。どこの組織の奴だ?)」

 

すれ違い際にチラリと相手を見、何事も無かったかのように通り過ぎる。

一瞬香水でカモフラージュされた火薬のかすかな臭いがした。

連れがいるかもしれないし、きっとこの村をすぐ出るつもりならば

今行動を起こすよりも、その瞬間を見逃さないまでだ。

 

時雨は上着のポケットからケースを取り出し、その中のカプセルのひとつを手に取り開けた。

中からは小型の虫の形をした探知機が出てきて、それを時雨は口元に寄せて

ターゲットの追跡を命じる。すぐに虫が飛び立ち女の傍に寄るとコートの襟元に付着した。

その探知機から出される電波は虫の出すそれと類似しているために

機械物の電波を察知する機械を使っても分かりにくい。

それを毎分ごとにSASの機関に常に発信している。

そこからその人物の現在地を割りだしているわけだ。

 そのまま 遠ざかっていく女をチラリと盗み見て、時雨は歩く速度を速めた。

 

 

 

 

 

女は角を曲がり、時雨の気配が遠ざかるのを待つと、

襟元についた虫を気にしながら肘まで伸ばされたワインレッドの髪を揺らし、

一息ついた。そして近づいてきた少年に目をやると、フフッと優美に微笑んだ。

 

「良い情報が手に入ったわ、例の研究室でついに実験が成功したそうよ」

 

そんな女の様子に苛立ちを隠せないらしい少年。

ブーツの側面に付いている小さな星型の刃をカシャカシャと地を蹴ってならす。

 

「それよりさっきの…。もう少し気を付けて歩けよ、あんなすぐ真横を通ったりして」

 

「どこの坊やかしらね。私が武器を持っているのに気付くなんて。気配が一瞬乱れたわ」

 

「どこの、じゃないだろ。そんなに香水付けて隠しきったと思ってるの?逆に怪しいよ、それじゃあ」

 

ピシャリと言い放つ少年に一瞬目を留まらせるが口元の

笑みを消して目を細めると、少年は観念したように首を横に振り、まぁ、と続ける。

 

「どうせ俺達を監視しようって言うんでしょ?じゃあこっちも

乗ってやろうよ。向こうの動きを探ってやる。次の目的地は…」

 

 視線を街の間から霞んで見える幾本かの天に伸びる建物に向け、二人の声が重なる。

 

 

 

「「アルトシェル」」

 

 

 

 

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