SAS──Special Ability Secret allied force──第一章・2

 

 

 

 

 

「ま、待って!」

 

こどもを追いかけて走る六陣。こどもはそんな六陣の姿に振り向くと、

ベーっと舌を出した。帽子のキャップと逆光によって表情は伺えない。

こどもはスピードを緩めることなく走ったが、後ろを見ていたために

足元に近づいて来た猫に気付くのが遅れた。

それを間一髪で避けたものの、小石につまずき倒れそうになる。

こどもの腕を追いついた六陣がひっぱり、自分の身体で守るように抱き締め、

脇の小坂になっている草原に転がり落ちる。

その際こどものポケットに詰めていたりんごが数個一緒に転がっていった。

 

「いったたた……」

 

 そう言って自分を抱き締めて守ってくれた少女の腕が緩んだ隙に、

こどもはそこから抜け出した。だがすぐに自分を守ってくれたことを

思いだし、その少女の元にしゃがみこむ。

 

「…大丈夫?」

 

「うん、なんとか…」

 

六陣はこどもが自分を覗きこんでいることに気付くと顔を上げたが、驚いた。

さっき転がったことによって落ちた帽子がこどもの表情を完全に見えるようにした。

男の子かとおもっていたこどもは女の子だった。

そのセミロングほどに伸びたちょっとクセっけのあるキャラメルブラウンの髪が

太陽に照らされてより甘い色に見える。幼いながらにスッキリした顔立ちで、

力の篭ったブラウンの瞳が印象的だ。

見た目からいって10にも満たないとは思うが、痩せているためにその前後である可能性もある。

 

 とにかく一度その顔から視線をはずし、起き上がる。

女の子は辺りに散らばったリンゴを拾うために立ち上がった。

六陣も、拾うのを手伝うと、それを見て女の子はニコッと笑った。

 

「はい、これで全部ね」

 

「ありがとさん。わざわざ追ってきたクセに助けるなんて…。

お姉ちゃん随分お人よしなんだね」

 

リンゴを抱え直しながら上目がちにその力のある瞳に覗きこまれ、

六陣は苦笑した。自分はどうにも小さい子に弱いらしい。

さて、と言いながら先を急ごうとする女の子に六陣は待って、と

引き止める気も無かったのに言ってしまった。

それにちょっぴり後悔しながらも言おうか言うまいか迷った言葉を口にする。

 

「ねぇ、どうしてお店から食べ物を盗んだりしたの?」

 

 今頃になってその質問か、とちょっと呆れた表情を見せたが、

女の子は少し迷ったそぶりを見せてからついておいでよ、と言った。

 

「どこに?」

 

「あの森の中。本当は秘密なんだけどさ…

借りの返しにいいもの見せるよ。…けど絶対に内緒だからな」

 

 そう言いながらあごで先の方にある薄暗そうな森を指し、また歩き始めた。

一度捕まえて店の前までこどもを連れて来ると時雨に合図していた六陣は

どうしようか迷ったが、きっと自分の居場所が時雨には分かるだろうと思い、

そのまま女の子について行くことにした。

 

 

 

++++++++++++++++++++

 

 

「(ふぅ、見当たらない…か。一旦捜索は諦めるしかないな)」

 

両手をジーパンのポケットにつっこみながら後ろに反り気味になりながら

やる気のなさそうに歩いていた時雨だが、それにも飽きたらしく空に向かって

ため息をつき、街の外れの石壁に背中をもたらせてその場にしゃがみこんだ。

そしてジーパンの左ポケット近くのベルトに引っ掛けてある3p弱の

カプセルの形をしたものを外して目の前に持ってくる。

先ほどのものとは違う形のそれを両手の親指と人差し指を使って

ひねってあけると左右に力がかかって開き、その空間に半透明のモニターが現れる。

 

手で支えなくても空中に静止したままであるそのモニターのボタンをいくつかいじり、

SAS機関の速報部第二部署に繋げてメールを一通送った。

内容はもちろん先ほどの女の情報である。

すでに探知機から相手の所在地を探索中のようで、済のマークがついていた。

それともうひとつの情報をPW入力して幹部に直接のメールを送った。

 

 全ての情報を入力し終えると、時雨はカプセルを閉じ、

もとの場所に付け直してから六陣を探すべくその場を後にした。

 

 

+++++++++++++++++++

 

 

「ちょっと、道から外れてるんじゃないの?」

 

 暫く足元の、人が通った跡になっている道を歩いてきたが、

六陣の前をあるいていた女の子は途中のカーブになっている

所から道を外れて歩き出した。こんな深い森のなかで迷ったら見つからない…。

そう思った六陣はそのことを女の子に尋ねてみるが、

女の子はフフンと鼻で笑うだけで何も今ずに歩き続ける。

 

そうこうしているうちに、遂に行き止まりになってしまった。

前方には背の高い茂みが広がり引き返すにも同じような

列をなして樹が生い茂っているためにどこから来たか判断がつかない。

 

 慌てる六陣を見やって一息吐くと「本当は人に見せたくないんだけど…、

お姉ちゃんならいいや」といい、前方の茂みに向かって両手のひらを突き出した。

すると目の前に広がっていたそれがうねるように動き出し、道を開けた。

その様子を呆然と見ていた六陣は女の子が歩き出すのを

ただ目で追うことしか出来なかったが、呆れた少女が振り返り「早く」と

言ったことによって立ち直り、足早に後を追いかけた。

 

 

 

 「ホラ、あそこだよ」

 

 森の中に入って数分、うす暗く不気味な細道を歩いてきた2人だが、

女の子の声で前方に視線を向ける六陣。すると目の前に

ポツリと明るい陽が指している場所があることに気付いた。

女の子はそこへと駆けだしたので、六陣も慌ててあとを追いかけた。

 

「ぅわ……」

 

 一瞬その明るさに目を細めた六陣だが、次に目を開けた時に

視界いっぱいに広がった明るい緑に言葉を奪われる。

不気味な森のなかに、ポツンと取り残されたようなキレイな光景。

そこには美しい花や緑、そして少し向こうの方によく澄んだ池が見える。

 

「出てきていいよ、ホリー」

 

 女の子は花の沢山生えている草原に腰を降ろすと、リンゴを取りだしながら

目の前にいない何かに話しかけた。すると、うす暗い森の中から一羽の精霊鳥が姿を現した。

純白の羽をキラキラと輝かせている。その姿はダチョウに似ていて、

走る事に適していて、人を二人くらい乗せられそうな大きさだ。

精霊鳥は六陣の存在を気にすること無く女の子の元に寄るが、

そんな光景を見ていた六陣は絶句した。その精霊鳥には見覚えがある。

いや、あれは確かにそうなのだろう。その証拠にその鳥の足もとには

SAS機関のものの証であるカプセルが付いているリングがはめてある。

 

「どう?珍しい鳥だろう。結構前……もう2ヶ月は経つかな。

この森に迷いこんで足を怪我して弱ってるのをみつけたんだ。

それから世話をしてやってたんだけどすっかり元気になってさ」

 

 そう言いながら精霊鳥の首に腕を回し、抱き締めている

女の子にどう言おうか迷う六陣。言葉を選びながら慎重に話す。

 

「その鳥を探しに…誰か来た?」

 

「まさか。どうせ捨てられたんだろう、もう走れないと思ってさ」

 

 楽しそうに話す少女を見ながらも、六陣は先ほどの光景が頭から離れず、聞く事を決心した。

 

「ねぇ、さっきのことなんだけど…」

 

「変わってるだろ?あたしもいつからできるようになったかは

覚えてないんだけどいつのまにか出来るようになってた」

 

 そのことにちょっと考え込むようにして顔を伏せた六陣だが、

すぐに顔を上げると女の子に向けて喋った。

 

 

「そっか……ねぇ、明日もここに来ていい?」

 

 ポケットからリンゴを取りだして、鳥にエサをあげている女の子の様子を

見ながら六陣はそう告げた。すると女の子はこっちに振り向き、いいよ、と言って無邪気に笑った。

 

「そういえばお姉ちゃんの名前は?旅の人なんだよね?」

 

「ぇ、私の名前…?………酒星(さかぼし)よ」

 

 六陣が酒星と名乗ったことに女の子は

ちょっと不思議そうな顔をしたが、すぐに鳥の方に向き直った。

 

「変わった名前なんだね。苗字なの??あたしの名前は飛虎(ひこ)だよ」

 

「そう、飛虎ちゃんね」

 

 一瞬疑われたかと思った六陣だが、特に気にする様子もない女の子、

飛虎に何もなかったかのように流した。

 

「ちゃんって……なんかしっくりこないけど、まぁいいや!

お昼頃に酒星……、お姉ちゃんと転げ落ちた草原のトコで待ってるよ!」

 

 しっくりこないらしい飛虎は、そのまま今までどおり

お姉ちゃんと呼ぶことにしたようだ。その様子に苦笑しながら、

六陣は彼女に別れを告げて一旦泊まる予定になっているホテルへ戻り、時雨と再会することにした。

 

 

 

 

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