SAS──Special Ability Secret allied force──第一章・3

 

 

 

 

 

 六陣がホテルに帰ってみると、そこにはすでに時雨が戻っていた。

どうやら一々探すよりも会えるのが確実なホテルに戻っていたらしい。

やはり、と苦笑しながらもそこがどこか彼らしく、

時雨が寝転がっているベッドの隣のソファに腰を降ろした。

 

「先に戻ってたんだね。御免、連れてくることできなくて」

 

「いや、そのことなら店主も気にしていなかった。で、何か情報は?」

 

 

「うん…、あのあと店の商品を盗んだ子を追いかけたんだけど、

そのこが女の子で飛虎という名前。そして………あいつの使っていた

SAS機関の精霊鳥を保護しているということが分かったわ。

視察の最後にここに寄ったのは正解だったみたい」

 

 あいつ、と言う言葉に即座に反応し、時雨が起き上がった。

そして一つため息を吐くと、どうやらそのようだな、と言った。

 

「だが、精霊鳥は機関に連れていくとしてもそのガキはどうする?

今まで保護していたなら俺達が鳥を連れていくことに反対しないか?」

 

「それが、精霊鳥のことだけじゃなくてその女の子の事も気になるのよ」

 

 そう言って、ベッドとは反対側を向いているソファの背もたれの上に

両肘を掛けて膝立ちになりながら時雨の方を見ていた六陣はソファに

うつ伏せになって寝転がった。何かひっかかるところがあるらしい

六陣の様子に心当たりのある時雨は、少し考える素振りをしながらも悩みの根源をストレートに問う。

 

「そのガキ、飛虎の家庭の事か?」

 

「ぅ…うん……」

 

 言われて確信をつかれた六陣は、一瞬困惑しながらも曖昧に肯定した。

 

「そのことは俺も気になって色々と模索してみた。

普通小さな子がこんな平和そうな村で盗みをはたらくとは思えないからな。

……両親は一年前に失踪して未だ行方は知れず。身寄りもないために

一人で暮らしているらしい。食料その他最低限の生活用品は近所の

大人の手助けでどうにかなっているようだが、それもあまり良い環境じゃないらしい。

貰えるものは本当に最低限で、盗みをしないと生活できないほどの貧しさらしいが

それを知っておきながら周りの大人は手を差し伸べようともしない…その原因が」

 

 今までうつぶせのままそれを聞いていた六陣だが言葉を切った時雨に、

話の続きが気になり再び起き上がり背もたれの上に肘をついて身を乗り出した。

 

「その両親ってのが、どうやらガルシア国指定保護生物の密輸をしていたという噂がこの村にあったらしい」

 

「それがバレて失踪を?それじゃあ話が合わないよ。密輸がバレたんならどこに逃げても捕まるんじゃ…」

 

「一足先に逃げたらしいな。どこかの裏組織に隠れているんだろう。

そうなれば軍も手が出せないしこちらに要請するにも情報や規模が小さいから無理だろう」

 

 ガルシア国は世界的にみても希少価値のある生物が数多く棲む土地である。

それは国内北部の奥地にあるといわれる、幻の大木『地神樹』が存在するからだ。

地神樹とはこの世界に古くから伝えられている神々の住まう世界にある天神樹と

繋がっていると云われる神木であり、昔この世界へと移り住むために

精霊達はそこから渡ってきたとされている。その木からしか出入りが出来ないために、

自然とガルシア国に精霊といった類の生物が集まる。

 

 そして、そのような希少な生物を守るために自国には希少生物保護法が

定められており、指定保護生物の密輸や捕獲には厳しい制定がある。

主に軍がそれに関与しているわけだが、事と次第によって軍に手が付けられないと

判断されてSAS機関に指令が舞い込んでくることもあるので、全く自分達と

無関係とも言えない。むしろ速報部には、そのような指令が舞い込んでくることがしばしばあるのだ。

 

 すぐにハッとした六陣が時雨の顔を見て何か言いたげにした。

それはすぐに伝わったようで、二人で頷いた。

 

「だったら飛虎が危ない…両親が裏組織に関与しているなら

アイツとの接触も考えられる。もしこの街のことを話していたら…。アイツが逃げる時に使った、

自分の足跡を残すこととなった鳥を易々と放置するわけない。きっと処理しようとするよね」

 

「その可能性が高い……。こうなったら鳥だけじゃなくて

そのガキも連れて戻ることになりそうだな…。面倒くせぇ」

 

「実はもうひとつ、飛虎ちゃんを連れて行く理由が出来たの。

私の間違えでなければね…。あ、それと薬草についてはどうする?」

 

少し考える素振りをした後、時雨は冷静に述べた。

 

「そのガキが犯人っていう筋が一番足り立つんじゃないのか?鳥の怪我の治癒に使っていたはずだ」

 

「やっぱそうか…。うん、じゃあ明日飛虎ちゃんにそのことも聞けば解決するね」

 

 そこまで言うと、六陣はソファから降りてドアの方へ向かった。

 

「そろそろ夕食もいるでしょ?街に行って買ってくるよ」

 

「おう、頼む」

 

 

 その後夕食も済み、その日は機関への報告や明日戻ることなどをメールで送り、夜が更けた。

翌日の午前8時、時雨はホテルに預けていた自分たちが使っている

精霊鳥を引き取るため動物小屋へ、そして六陣はすぐに村を出るとの事で、

もしもの時の非常食を買うために街へと向かった。

 

 

 

++++++++++++++++++++++++

 

 

 

「これで水・食料は揃ったよね!他に必要なものもないし…あとはあの子を探さないと」

 

 昨日の約束でお昼に会うということになっているために

今はどこにいるか分からない。早く探して帰りたいのだが…。

 

「離せオッサン!!…このっ!」

 

 食料調達も終えて昨日の少女との約束を思いだしながらも、

どうやってその少女を探そうか考えていた六陣は、二つ先の角を

曲がった所で聞こえる聞き覚えのある大きな声に反応して足早にそこへと向かった。

するとそこには確かに昨日出会った少女飛虎と、

同じく昨日彼女がリンゴを盗んだ店の店主であったはずの男がいた。

 

「黙れ盗人が!!店の商品だけでなく、畑の薬草にまで

手ぇ出していたとはな!!金が欲しくなって売ろうとでも思ったのか?」

 

「っんなんじゃねぇよ!!ただ……必要になっただけだ!」

 

「理由が言えねぇなんてな。やっぱり金欲しさに盗んだんじゃねぇか。

食うもんならまだしも金のために人様の物を盗むとは!もう我慢ならねぇ。軍に突き出してやる」

 

 男が飛虎の腕を掴み、家の中に連れて行こうとしているところだった。

薬草と聞き、昨日聞いた薬草が盗まれる事件の犯人が飛虎だったことがはっきり分かり、

六陣はどうしようか迷った。呆然と立ち尽くす六陣が背後にいるために

その存在に気付かない二人はまだ言い争いを続けている。

すると、突然肩にトンと手を乗せられて彼女は驚いた。

動揺していて気付かなかったが後ろには時雨がいてそのままツカツカと二人の前まで歩いていった。

 

「薬草を盗んだというのは本当か」

 

「…何だ?昨日のガキじゃねぇか。今は取り込み中なんでね、話はあとで…「俺は軍の者だ」

 

 時雨がそう切り出すと、男は驚いた顔で目の前の少年に目を向けた。

六陣にはやっと時雨のその行動が分かり、男が呆然としているうちに

逃げ出そうとした少女、飛虎の腕を掴み、その場に留まらせようとした。

 

「お、お姉ちゃん!?何でこんなところに…」

 

 今の今まで六陣の存在に気付いていなかった飛虎は、

いきなり腕を掴まれた事に驚き、素っ頓狂な声を上げた。

そんな様子の彼女に微笑みかけると六陣は真剣な顔になり、時雨と男へと目を向ける。

 

「軍だと………?お前みたいなガキが?嘘を吐いてもバレバレだぜ?」

 

「信じられないってか。………アンタはこの国に存在するもう一つの軍を知らないのか?」

 

 嘲笑うかのような表情をしていた男は、時雨が一歩、また一歩と

近づきながらベルトの脇腹の方に手をかけ、何かを取り出す様子に段々とその笑いを引っ込めた。

 

「もう一つの軍だと…?デタラメを言っちゃくれるなよ。

そんな存在聞いたコトもねぇな。ガキの話に付き合うのは終わりだ!とっとと…」

 

「俺は、ガルシア国隠密機関、特殊能力秘密連合軍に所属する者だ。

地位は幹部。機関内の上層部に所属している」

 

「ちょっとちょっと、連合軍っていうのは二カ国以上の国で

成り立ってるモンだろうがよ。一体どこの国と……!!」

 

 その男の言葉と一緒に時雨はカプセルを軽く宙に投げた。

するとカプセルは時雨が広げた右手のひらに直立し、開いた。

そこから出てきたモニターに目を見張る男。その男の驚く様子に

今まで俯いていた時雨は嫌な笑みを浮かべながら続けた。

飛虎には何故男がそんなに動揺するのか分からない。

そこに描かれているマークの一つはガルシア国の国旗にも描かれているもの。

だがもう一つは見た事もないものだ。

 

「気付いたようだな。これは機関の者である証のカプセルだ。

この中には俺のIDやその他、機関に関係することが入力されていて、

更に色々なことに他用できる。だが、これを使う際には本人にしか

反応しないようになっている。そしてこの出てきたモニターに記されているマーク。

これは機関の所有する印であり、国旗だけが描かれている表世界の

軍のものとは違い、もう一つ、ある国の国旗のマークが入っている。

……アンタも知っているようだな?このマーク」

 

「知っているも何も、それは伝説上でしか存在しないはずの…」

 

「そうだ。このマークは過去にこの世界を一つにまとめその中心に

立ち歴史を動かしたとされる伝説の国『エアハルト=クレイ』の国旗のマークだ」

 

 国の名前を聞き、男は呆然と立ち尽くし意識をどこかに

飛ばしてしまったかのようにピクリとも動かなくなってしまった。

時雨はカプセルを元に戻し、それをベルトに付け直すと、

こちらも何が何だか分からないで固まっている飛虎の方へと目を向け話しはじめた。

 

「てゆーことで、お前にも来てもらうぞ。そんな重罪人を

いつまでも放置しておくわけにもいかないしな。荷物をまとめて来い」

 

 そう言って六陣に向かってニヤッと不敵な笑みを浮かべた時雨に、

六陣も頷き飛虎に何かを囁いた。するとパァッと表情を明るくさせて

荷物まとめるからここで待っててよ!と言って走り去ってしまった。

 

「わ、分かった…あのガキのことはお前さんに任せるよ」

 

 放心状態からやっと回復したらしい男は気弱にそう言い、

少女が消えていくのを遠目に見送ると、トボトボと家の中に入ろうとした。

 

「おい、アンタ…。…この機関は特殊な軍隊なモンだから、

他言されたら困るんだ。もしそれを守らないでバラしでもしたら…」

 

「ヒィッ!!分かってま、ますとも……。一切他言はしません…だから」

 

「それなら命を取ったりはしねーよ。さっさと家に入んな」

 

 脅しをかけて言った時雨に男は慌てて家の中に飛び込んでいった。

それをみて時雨と六陣は苦笑して、時雨が連れて来ていた──二人が

移動に使っている──精霊鳥のもとへ近づき、六陣はさっき買いこんだものを

自分の精霊鳥のかけている鞄の中に仕舞いこんだ。

 

「お姉ちゃーん!連れてきたよ!!」

 

 さっき少女が去っていった方向から再び少女が戻ってきた。

さっきとは違い、精霊鳥に乗りながら。

 

「じゃあ出発するか」

 

 時雨のその言葉で六陣も精霊鳥に乗った。

 

「ところで、どこに行くの?」

 

 やけに嬉しそうに話す飛虎。

それも先ほど六陣の囁いた言葉のお陰である。

「あなたを保護するの。大丈夫、とっても安全なところだから。

それに、あの鳥も一緒にね」というものだった。走り出した三羽の精霊鳥。

先頭に時雨、そして次に並ぶようにして六陣と飛虎。飛虎のその言葉に、六陣はにっこりと笑うと答えた。

 

 

 

 

「ガルシア国首都アルトシェルの近くに位置するSAS機関よ」

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送