SAS──Special Ability Secret allied force──第二章・1

 

 

 

 

 

「このでっかいのが、あの…なんとか機関…?」

 

 目の前にあるドでかい外壁と門。その奥に広がっている長い道と草木に

目を惹かれる飛虎。先程までは荒野しか見えなかったはずなのに、

突如として目の前に広がったそれに、彼女は驚きを隠せないでいる。

 

「ええ、そうよ。ここがSAS」

 

 そう言いながらも前に進んでいく時雨と六陣。

その二人の後を追いながらもキョロキョロと辺りを見渡す少女。

門の両サイドには見たことのない軍服に身を包む二人の男。

時雨と六陣はそれぞれどちらか一方の人の元に近づきカプセルの

ようなものを見せているようだった。

 

「さ、入ろう」

 

 六陣のその言葉に続き、三人は中へと入った。

両サイドが木々に囲まれて辺りを見渡せない、50mはあると思われる

道を進んだあと、もう一つの門が見えてきた。左側に細長い建物が見える。

そしてその奥には更に大きい建物。右側には大きな太陽の光がよく入る

ガラス張りの建物。そしてこれらの施設の中でもひときわ高く、天に伸びる

変わった形の建物があった。円状になったその建物は、中央に一本細長い円柱が

建てられていてその周りを囲うようにして一回り低い建物が建っている。

遠いのでここからはそれ以上の情報を掴むのは無理だったが近付いても見えないのだろう。

ガラスは外から中が覗けないようにミラー造りになっているために太陽の光が反射している。

 

「まずは精霊鳥を小屋に戻しに行こっか」

 

「酒星、俺のを頼む。先に機関に戻りたい」

 

「分かった。ホラ、イークおいで」

 

 飛虎を精霊鳥の小屋に案内しようとした六陣だったが、

時雨が先に戻ると言ったために彼の乗っていた精霊鳥、イークをこちらに呼んだ。

それを見届けると一、二言を交わしてから時雨は奥の道へと進んでいき、

曲がり角を曲がるとその姿は見えなくなった。

 

「鳥にも名前が付いてるんだ」

 

「うん。私達にはすぐに使えるように一人一人にSASから鳥を貸してもらえるの。

鳥のことは私達の個人情報にも登録されていて、

鳥にも私達持ち主の情報が入っているの。ちなみに私の精霊鳥の名前はゼノ」

 

 ホラ、この足に付いてる…そう言いながら六陣は自分の精霊鳥の足に付いている、

自分達の持っているカプセルよりも一回り大きいそれの付いたリングを指差した。

 

「あ、それ確かホリーにも付いてた…」

 

「ホリーはもとSASの機関の精霊鳥だから。今まで行方不明になっていたの」

 

「そうだったんだ。見つけられて良かったね!これもあたしのお陰かな〜」

 

 そう言いながら上機嫌になっている飛虎を、六陣は複雑な表情で見ていた。

確かに見つかったのは良かったがホリー、いやキルイアはきっと

全ての調査が終われば処分される。なんせ重罪人の使っていたものだから

移動用に使うのは危険なのである。用のないものには容赦しないのがここ、SASだ。

 

 

 

++++++++++++++++++

 

 

 

「ほえー、広いね」

 

「特殊部隊班以上の位の人達の分と、

特令でしか使わない珍しい精霊鳥や生物も飼育しているからね」

 

中に入りすぐにある6つの分かれ道の右から二番目の道に入り

暫く歩いたり扉を開けていったりしたあと、ドアの看板に特殊部隊班と

書かれた場所にたどりついた。そこにはいくつもの天井まで続く──高さ

15メートルにはなりうる──仕切りが両サイドにあり、六陣は右側の一

番手前側にある檻へ自分の鳥、ゼノを入れた。他の檻に比べて極端に

鳥の数が少ないその檻の中に入った彼は、真っ直ぐ水飲み場に辿りつき、

水をくちばしで上手に啄ばみ始めた。他にも数羽鳥がいるが全ての柄が

同じわけではなく、斑点のあるものや毛色の違うものなど様々である。

 

 その様子を興味深そうに眺めていた飛虎に視線を移し残りの

二羽を連れながら次に行くよ、と声をかけた。

 

 次に来たのは先ほどの分岐点に一度戻り、そこから先ほどよりも

少しばかり距離の短いところにある、扉に幹部・上層部と書かれた場所だった。

扉を開けるとさらに上へ続く道と下へ続く道に分かれていたが、

六陣は迷うことなく上への道を選んだ。扉を開けた先には、先ほどのように

一つ一つの檻は大きくないが変わりに一羽ずつしか入っておらず、

不在のためか何もいない檻もある。その一つにイークを入れたところで飛虎が気になっていた事を口にした。

 

「扉には幹部・上層部って書いてあったけど、あのお兄さんってそんなに偉い人なの?」

 

「んー、……それはあとでちゃんと説明されると思うけど、私よりは偉い人だよ」

 

「確かに偉そうな顔はしてたけど…。お姉ちゃんと同じくらいの年に見えた」

 

「……ここに年は関係ないの。重要なのは、実力だけだよ」

 

少し困った後、そう口にした六陣に飛虎は未だ納得した様子を

見せなかったがそれでも頷いてみせた。そう、確かに此処SASは

実力だけを高い順番に並べていっただけのような争いの中にある縦社会である。

個々に求められるのは頭脳と能力と実績のみで、人情などというものは存在しない。

それがここで生き残っていくために必要である全てのものであって、

それを持たぬものは絶えてゆく。そんな非人道的であり

背徳的であることを鵜呑みにしてしまう、するしかない自分に腹が立った。

 

また元の道に戻る中、幹部・上層部の扉を開けてすぐにあった上下へ

続く道まで戻ると、下へ向かう道の方からヒヤッとした冷気が流れてきた事に

飛虎は気付いた。どうやら地下へと続いているようで、スロープになり下へと

続いている道は上へ行くのに比べ薄気味悪くなっているようにさえ見える。

 

 

また先ほどの6つの分岐点へ戻るとキルイアの手綱を持ったまま

後ろの飛虎へと六陣は振り向いた。その視線を感じて俯いていた顔を上げた

飛虎は六陣と視線がぶつかった。

 

「ホリーはいなくなっていた間の調査も兼ねて調査場の方に

 連れて行かなきゃいけないからここで待っていてくれる?」

 

「うん。それはもちろん」

 

 待っている、という意味を含めてそういった飛虎に

六陣は静かにうなずき鳥を連れて一番左の道へと入っていった。

 

分岐点からの通路は天井が低いが、分岐点の少し手前のここは

柔らかい日差しの入る暖かいところだ。それでも少しひんやりしている

石造りの床に腰を降ろすと、天井を見上げてため息をひとつ吐いた。

 

『どうしてお姉ちゃんは私を泥棒だって突き出さなかったんだろう』

 

 昨日、六陣と出会った時の事だ。彼女は食べ物を盗んだ飛虎を

追いかけ、店へと連れ戻すために追ってきたはずなのに、自分を助けて

くれたときにはそれさえ忘れてしまったような様子だった。

 普通、旅の途中でいきなりあの光景を見た者ならば、迷わず

自分を泥棒扱いしてしまってもおかしくない。あそこの住人は自分の

事情をしっているために見て見ぬフリをしたとしてもだ。

 

 親がどうして突然消えたのか、飛虎には分からない。

いずれそうなるとは思ってもいなかった。しかし、たびたび訪れる

男達のことなら知っていた。そして、そいつらが帰ったあと

必ず両親が悲しい顔をしていたのも覚えている。きっと奴等のせいだったんだ。

 

村の大人達の様子も変わった。

嫌な視線が街中に広がったときにはこどもたちの視線まで変わっていた。

そんなときに彼女のもとへと飛び込んできた鳥、ホリーは

心を癒してくれる大切な存在になった。そして、知らない機関へと

来てしまったが、不安や恐れというものは一切ない。むしろ

彼女は自分をあの冷たい街から救ってくれた二人に感謝さえしていたのだ。

 しかし、ホリーのことが済めばすぐに街に戻ることになるのだろう。

ため息を床に吐きつけた。

 

「遅くなっちゃったね、ごめん」

 

 突然上から声が振ってきた。驚いて顔を上げたが

そこにいるのは街の人間なんかじゃない。

柔らかい光を放つ桃色の髪をした少女だ。

 

「ううんっあんまり待ってないよ!」

 

「さて、精霊鳥も置いてきたし…行きますか」

 

「次はどこに行くの?」

 

 

結構な規模の鳥屋(とりごや)、通称レストプレイスを出て

伸びをしながら行った六陣の言葉に、飛虎は無邪気に聞き返した。

 

 

「……きっとビックリするよ?」

 

飛虎の問いに顔をニヤッと笑わせ楽しそうに言う六陣に

対し飛虎は訳が分からなくただ首を傾けるだけであった。

 

 

 

 

「速報部第一部署の酒星です、御用件があり伺いました」

 

そう言いながら二人が訪れたのは、先ほどの位置からさほど

離れていない道の向かい側にあった、周りの建物から比べれば

少々小さめな白い外壁に包まれた施設だ。

入り口を入ってすぐにある受付へと向かい、窓口にいる女性に

話しかける六陣。その様子に受付の女性も丁寧な口調で喋り、

すこしのやり取りの後、話が切り出された。

 

「本日は、調査先でエゼル、又はギフの所持者の

可能性がある少女をみつけたので試験の受付に来ました」

 

 

 それまでぼーっとしながら二人のやり取りを聞いていた飛虎は、

その話の中心が自分であることにようやく気付き、目をぱちくりさせた。

すると受付の女性と目が合い、気まずそうに視線を逸らす。

次いで六陣へと目を向けると、にこっと微笑まれ、気まずいながらにも切りだした

 

「お姉ちゃん、それってあたしのこと?私はそんな…」

 

「勿論飛虎ちゃんのことだよ」

 

 動揺する飛虎に未だ優しく微笑んでいる六陣はどこかのほほんとしている。

そして少女に近づいた彼女は飛虎と目が正面で合うように少し身を屈め、ゆっくりと喋った

 

「植物を自在に扱えたよね…。私が見る限りあなたにはギフ又は

エゼルを持ってる可能性があると思うの。試験を受けて合格すれば、ここに在住できるよ」

 

「その試験って難しいの?」

 

「人によって違うけど、基本的に簡単だよ」

 

「あたし…、その試験、受けるよ」

 

 今まで両親に置いていかれ、一人で暮らすのを強いられたせいで

食事もままならず、盗みでしか生きながらえる方法もなく困難を強いられた飛虎には、

少しでも今までより楽な暮らしができるならどこへでも行きたかった。

そのチャンスがこうやって巡ってきたのなら、たとえここが何処だろうと

今までよりもまともな暮らしを望めるならその試験を受けない理由がない。飛虎はすぐにOKした。

 

 

 

 

 

+++++++++++++++++++

 

 

 

 

「ねぇお姉ちゃん、ここってどんなところなの?」

 

 試験会場に移動する間、先ほどから疑問に思っていたことを

隣を歩く六陣に問いかける。

 

「あぁ、そうだったね。まずはそこから話そっか。

ここは特殊部隊秘密連合軍…通称SASと呼ばれている軍で

表の軍に負えないような任務や独自で動いている、表には知られていない、

存在を隠さなければいけない組織なの。

アカデミー生、部隊班、特殊部隊班、幹部、上層部と事務や

他の仕事で働いている人達で組織されていて、すべてを合わせると結構な数になるね…。」

 

歩きながら話している二人の間に受付の女性は干渉することなく

先頭を歩いた。大きな外観のわりにこまごまと部屋が分かれている

この施設は通路も大きくはなく入り込んではいるが、迷うことなく角を曲がってゆく。

コンクリート製の壁と床で涼しそうではあるが、建物内が全てそれに統一

されているために、彼女を見失ってしまうと迷ってしまいそうだ。

 それを気にするそぶりもなく、六陣は話し続ける。

 

「部隊班への入隊試験はそれぞれ独自に行われていて、とくに時期の指定もないから試験の願書を

提出すればすぐに受けられる。でも満10歳以上でないと受けられないの。

合格すれば大抵は部隊班で、稀に特殊部隊班から声をかけられることもあるわ。

とにかくその門は狭くてすぐに入隊できるわけでもないの。

そしてここの機関を束ねているのが幹部・上層部の人間達。幹部は12人からなる…

私も滅多に見かけない謎の集団でその上に更に上層部があって、ここの機関のトップがいるの。

能力さえあればどこまでも上に上がるのを許されている機関だよ」

 

 

 そこまで喋ると飛虎を見て、わかった?と聞いてきた。

 

「うん、大体…」

 

 一度に色々なことを話されて少し混乱したが、

それを表に出さないように頷くと「そのうちここに慣れれば分かるよ」と返された。

 

 

「到着致しました。既に試験管の準備はできておいでです。どうぞお二人でお入りくださいませ」

 

 

5分は歩いただろうか、目の前の扉の横には「試験室」と書かれた白のプレートのみが存在し

この無機質な空間にポツリとその明るさを浮かび上がらせている。

 これから待ちうけている試験がどのようなものかは知らないが

扉の向こうに何があるのかという好奇心と緊張が入り混じり複雑な気持ちのまま扉が開け放たれた。

 

 

 

 

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