「あとは大丈夫か?」

 

「うん、なんとかね。運んでくれてありがとう」

 

「…なら戻るから」

 

 

 

 

SAS──Special Ability Secret allied force──第三章・5

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は移って機関内の北側に位置し部隊班隊員専用階の女性寮

にある六陣の部屋の玄関。時刻は6時を廻っている。

 彼女の部屋に化学生物を届けた時雨はすぐに自室のある

中央塔──幹部生には、塔の上層に各自の部屋が用意されており

大抵の幹部生はそこで生活をしている──へと戻っていった。

 

 とりあえずリビングまでケースを運び、自身も任務の

疲れを癒すべく、入浴の準備のため衣服をチェストから取り出す。

バスルームに入る際に、もう一度ケースの中をみるが、薬が

効いているせいか一向に起きる気配もない。

 

「君はどうしたらいいんだろうね…。とりあえずシャワー浴びてくるから

 おとなしくしててね?」

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

「狭雲くん………?」

 

 幹部生のみが利用している特別なエレベーターを使用して

例の生物の報告をするため幹部生一月の月(いちがつのつき)のフロアを

訪れた後、自室のある階に着くと、そこには十二月の月(じゅうにがつのつき)、

乙月(おとづき)が待っていた。

 彼女は時雨の姿をみつけると近づいてゆき、にこっと笑いかけた。

 

「お疲れ様でした。さっきロビーにいったら所在ランプ付いてたから

 戻ってるのかと思って…」

 

「さっき帰ってきたところだから」

 

 歳は時雨とそう変わらなく、幹部生の中では彼の次に若い17歳だ。

 

「ううん、今回は大変だったんでしょ?研究所の方で何かあったみたいだけど」

 

「あぁ、化学生物の受け入れ許可証を発行するのに手間取って遅くなった

 だけだから、心配いらねーよ」

 

 心配そうに詰め寄ってくる乙月の額に軽く突きをして

ドアまで歩いてゆく時雨にムッと膨れながら乙月もあとを追う。

 

「子ども扱いしないでって言ってるでしょ?」

 

「別に子ども扱いしたわけじゃねーよ。ちょっと疲れたからもう寝る」

 

 鍵を開けて振り向いたところでそう口にした狭雲月に、乙月は

ためらいながらも彼に疑問を問うた。

 

 

「ねぇ、どうして特部(とくぶ)の任務を引き受けるなんていい始めたの?

 そもそもメンバーが欠けているなんて、どこの部署でも珍しいことじゃ

 ないんだし、わざわざ幹部生が口を出すようなことじゃないじゃない」

 

「俺だってそれが妥当だと思ってる。だが、幹部では動きにくい行動も

 部隊班の任務に就けばできる。それだけだ」

 

「彼の情報を探すつもり?」

 

 

「あぁ………。そもそもあいつは俺にとって無関係じゃない」

 

「でも、あなたが責任を負うようなことでもない」

 

 

「……俺以上に苦しんでいるやつがいるから、俺はそいつの

役に立ちたいだけだ。寝るから、じゃあな」

 

 それきり乙月の返事も待たずにドアを閉めた狭雲に、乙月も

仕方なくエレベーターへと戻る。はぁっとため息をつくが、それは

何の意味もなさなかった。

 

 

「酷いよ…。そもそも私がなんで首を突っ込むかも知ってるくせに…」

 

 自室のある階にいくエレベーター内で、乙月は一人ごちた。

 

 

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

 

 

「ふぁー、久しぶりの長シャワー気持ちよかったー」

 

 中期であっても任務中は中々ゆっくりとシャワーを浴びる時間もなく

忙しかったせいか、久しぶりにゆっくりとできた六陣はタオルを首元に

かけつつ、パジャマに着替えてシャワールームから出てきた。

 そして殆ど飲料水しか入っていない小さな冷蔵庫から炭酸飲料を

取り出し、手近にあったクッションを引っ張りケースの傍に置いて

そこに座りつつ、中の様子を見つめる。小さな寝息をたてている

その化学生物は、まだ起きていないようだ。

 

「アンタはいつになったら目を覚ますんだろうねー、そろそろだと思うんだけど」

 

 睡眠薬の効果は3時間と聞いていたからそろそろのはずだ。

だが、いまだにそれは小さな寝息を立てている。

 

「これからどうしようね、このままじゃ、アンタは研究室か

 怖―い怖―い医術部送りよ?あんたも解剖されちゃうかもね」

 

 さっきの話を聞いた六陣は、それも加えて部屋の中を見渡しながら呟く。

自分しかいないのだからこの際独り言でも気にしない。

 

「そもそも、あの変な二人組みはなんだったんだろう…」

 

 敵、ということは言わずもがな理解できる。

なんせ研究所を襲ったのだから。それに敵宣言もばっちりしていった。

だが、その割に戦闘意識がなかったり変に自分たちのことを

ペラペラと喋ったりと、本当によくわからなかった。

 

 きっと、彼らにとって、あれほどの情報は彼らを

微瑕も揺るがさないことなのだろう。そうでなければあんなに

内情を話すことは多分できない。

 

 

 それに。

彼らに戦闘意識がなかったということは、つまりは

自分たちがみくびられていたのだ。それだけ彼らには

腕前に自信があったのだろうと、認識してもおかしくはないのだろう。

 もしくは何か、もっと恐ろしい何かを持っている、か。

 

「あいつらのこと、知ってる?」

 

「多分、アンシェルと名乗るグループの奴だ」

 

「え!?」

 

 びくっと震え、声のした方を振り向くが、そこには誰にもいない。

 

「ばーか。俺が喋るってことはお前も知ってるだろ」

 

 その声につられ声のする方向を追うと、そこには

例の生物の入ったケース。声のぬしは、この生物だ。

 注意が檻の外に外れていたこともあったが、しかし口元が動く様子も

まぶたを開ける様子も見せなかった。

 

「ほ、本当に喋ってる……」

 

「珍しいことじゃないだろ、人語を解する生物は。

 高等精霊は大体が解するっていうし」

 

 そりゃあそういう話はある。自分はそういった経験がないから

真意については謎であるが。だが…

 

「でも、喋る化学生物は」

 

「はじめて ってか。まぁボクはすべてオリジナルじゃないからね」

 

「……?」

 

「その阿呆な口はとりあえず閉じろ。話はそれからだね」

 

 顔色ひとつ変えないその生物の言葉もなんとか理解し

口を閉じるが、思っていたような声ではなかった。

少々アルトの高めの声。澄んでいて聞き心地も良いと思う。

 

 これが喋る化学生物……

 

 

 

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