SAS──Special Ability Secret allied force──第三章・6

 

 

 

 

「ちょっとお姉さん、放心しすぎてない?もっとシャキッとしてもらわなきゃ」

 

「そ、そんなこと言われても!」

 

 

 まさか、ここまで人間に近い喋り方をするとは思ってもいなかった。

というのが今の状況で、目の前のケースに入ったままの化学生物は

表情こそそれほど変わらないものの雰囲気で分かるほどに呆れている。

 それに対しオロオロオドオドしている六陣の考えていることを悟った

化学生物は、あぁ、そっか。と呟き伏せたままの状態だった体を起こした。

 

 

「誰か呼ぶんならそれでもいいけど、まずはボクの話を聞いてもらいたい」

 

 

 その前にこの檻から出して欲しい、と注文が来て、迷った末に

逃げたりしないという生物の言葉を信じて六陣はケースの鍵を開けた。

──そもそも、この機関から脱走することは不可能だという前提を元に。

 

 

「まず、ボクの名前。ロゼフィンと覚えてくれ。呼ぶときはロゼフで構わない。

 もちろんこれはアリアスだけど、ボクを知っている人はみんなそう呼んでいる。

 それと、どこで情報が誤差したかは分からないけれどボクはあの研究所の

 実験で成功したわけじゃない。別のところからあそこへと送り込まれただけだ。」

 

 ケースから出た化学生物もとい、ロゼフは淡淡と語りだした。

六陣の正面に腰を下ろし、じっと六陣を見つめながら話している。

 

「じゃあ聞いていい?あなたはどこから送られてあの研究所に来たの?」

 

「……それは、いえない。なぜならそこは、ボクとも深い関係があるから。

 でもボクは、そこで実験を行われて現在の姿になった」

 

「姿になった…?じゃああなたはもともと何だったの?」

 

 真剣な顔つきでロゼフをじっとみつめる六陣に、ロゼフは

一度間をおいてから、話した。

 

「ボクはもともと人間だった。生物学上では女の、ね」

 

 

 

 

 

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 もともとボクは、その研究所で生物学の実験を行う

研究者のひとりだった。詳しい実験の内容な暴露できないけど

そこでは非合法な実験も数多く行われていた。いや、むしろ

そちらの方が主体というべきだね。

 

 …生物学上でいうと、ボクが人間でいたときの性別は女。

でも、ボクは個人の意識のうちでは男、つまり、性同一性者だった。

 この世界には、性同一性者というものの存在は限りなく少ないと

今の医学では言われている。当然ボクも、社会の異物とみなされ

穢れた存在とされた。だが、頭は良かった。役に立つ人材だった。

 だから15のとき、そこの研究員に拾われて、研究所で行われていた

プロジェクトにも参加できるほどの実績を上げた。

 

 だが、あいつらはそんなボクを裏切り、ボクを実験の材料として使った。

内容は、「喋る化学生物の生成」。様々な種類の妖精や生物を使っても

実験には失敗した。そのなかで、その実験に関する論理を知っていて、

尚且つ「いらない存在の人間」が奴らには必要だった。

 そこで利用されたのが、ボクだった。実験が成功したということは

やつらには計算外のことだったのかもしれない。なぜなら前例に一度

拉致してきた男にその実験を行って失敗していたからだ。

 

 ボクは女であるということと、もともと小柄だったことも兼ね

成人よりも臓器や器官が小さく、更に耐久性もあった。

 はじめにボクの遺伝子を抜き取り、実験に使用した生物のクローン体内に

それを移植、繁殖させて拒絶反応をなくすと共に臓器を形成させ、

最後に脳を一部萎縮して移植するものだった。…簡単に説明したが、理論は

もっと複雑で、実験を何度も繰り返した結果のもっとも成功率の高いやり方だ。

それでもかなり危険を要したし、違憲など承知の命知らずで無茶なものだと思われた。

 

 

 だが、その実験が成功し、ボクは今の体へと生成されたんだ。

ボクには自殺願望があったから、正直この実験で死ねるんだと思っていた。

だけど実験が成功したせいで、ボクはこんなみじめな姿で再び

この世界で生きることとなった。多分国内でも始めての成功例となったボクの

存在は、研究所内にいたスパイによって、裏世界に情報が漏れ、狙われた。

 研究所は壊滅し、なんとか追っ手からは逃れられたものの、ひょんな事情で

お前の親が働いていた研究所へと流れた。たまたまそこが安全な

研究所だったから良かったものの、もしも裏にかかわりのあったところなら

ボクはこんな安全なところにはいられなかったよ。…ここがどこかは知らないけど

お前の様子を見ていれば、ここがどのようなところかは想像がつく。

 

 

 ところで、六陣って言ったよな。お前には頼みたいことがあるんだ。

この国、ガルシアにはもうひとつの世界があったことを知ってるよな。

そう、エアハルト=クレイだ。

ボクは実験に使用される前に、それについて書かれた書物を発見した。

エアハルトの歴史が書かれていた本だ。あの国は、今でも

その名を知っている者が数多く残っているほど、神話に最も近く実在した国だ。

 ボクは、それについて書かれた書物に載っていた、ある土地に

行ってみたい。まだ、未発見のままに取り残されたはずだがそこは神話の中に

潜んでいた。実際にモルモットになる以前はエアハルトの調査のために近隣に

設けた研究所で調査をしていたこともあった。そこで、読みきれなかった蔵書に

目を通し、謎を解明したいんだ。

 

 そこにさえ行けたら、ボクをどこにでも送って検査なりなんなりすればいい。

だけど、そこにだけは行きたいんだ。エアハルトの秘密を知りたい。

 そしてこれは、国に伝わっている歴史の今後へのおおきな謎の解明にも

なるだろう?そちらにだって利があるはずだ。

 

 

 

 

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「で、お前がそのロゼフィンを、その土地に連れて行きたいのか」

 

「はい、今回の長期任務のあとには有給を約束されていたし、それに

 これも調査の一環だと考えれば不可能ではないはずです」

 

 ロゼフに事情を聞いたあと、六陣はいまだに留守中の自分の所属する

ところの部署長のかわりに第二部署長であるひかたのところへと赴いていた。

 真剣に目を向ける六陣にとうとう折れたひかたは、しょうがないと言いつつ

手近にあった煙草に火をつけて吸った。

 

「いっといで。エアハルトについてはSASも捜査中だし、もしも

 それが本当だとすれば、むしろ手柄を立てられる」

 

 了解を得られたことにホッとした六陣に

ひかたはただし、と条件をつけた。

 

「調査にはいつものように狭雲を連れて行くほかに、もう一人連れて行け。

 なるべく頼りになり、そういった考古学に向いているやつだ。そうだな、俺の方から

 手配はしておくから、明日の午前9時、レストプレイスの前に集合し合流しろ」

 

 

 

 

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