「はー、さっすが南の島だけあるな、辛気臭いSASとは大違いや」

 

 

……予想はしていたけれど、やっぱりあなたでしたか。

 

 

SAS──Special Ability Secret allied force──第四章・1

 

 

 

「なんや、元気ないんやない?」

 

「いや、そんなこともないんだけどね…」

 

 

 エアハルト=クレイには、国家を代表する研究員でさえ未だに解明できていない

不可解な点が数多く残されている。だが、その土地・国が存在していたという事は

長く語られ続けられた神話と文明の名残により確かなる証拠がある。

 今回、ここガルシア国内の最南端の都市ハルパゴスに来ることになったのは、

六陣の両親の研究所に送られてきた化学生物、ロゼフィンを先導に、神話に

包まれたエアハルトの謎を解明するという目的からだった。

 

 ひかたの出した調査に行くための条件とは「その手のものに詳しい考古学の知識

がある者」を一人つれていくというものだった。

 そこである程度の予測はしていたものの、それが確実なものになったという実感は

心地よいものではなかった。

 

 

「てめーがはしゃぎすぎなんだよ、古春」

 

「はしゃぐのはしゃーないやろが!うちはあんたらと違って機関内にずぅっと閉じこもり

っきりなんやで。気分も滅入るわ」

 

 今回の任務には古春、つまり遊井 捺弥(ゆい なつみ)も考古学に知識のある者と

いうことで同伴することになったのだ。

 彼女は今でこそ拷問・尋問部署という体力・気力勝負の部署に配属されているが、一方で

考古学の教養も身に付けている。それもまた彼女を考えれば奇異な話ではあるにせよだ。

 

 しかし、遊井にはこの任務に同行すること以外にも、南部にある一般軍の査閲にいく

という任務もあるために、初日の行動は別となる。その間に時雨と六陣はロゼフと共に、

ひとまず宿をとりにいくことになった。

 

 彼ら3人には、元々面識があり、それ以上に親しい関係だ。それは、それぞれが入隊試験を

パスして各部署へと送られたときの同期であるからだ。

 今でこそ部署が変わってしまったが、それでも交友はある。

 

 

 ハルパゴスはガルシア国本土から離れた島で、一年を通しての温暖な気候に、生息している

妖精たちも比較的気性のおとなしいものが多く、立ち入り禁止区域が少ないことで各地から

人々がバカンスに訪れる南国の島である。

 そして現在、その島に向かっている船の上にいるのだ。

 

 

 

「ところでロゼフ、本当に大丈夫なの?気分が悪いなら人のいないところで

 外の空気を吸った方が具合も良くなると思うんだけど…」

 

「これくらいは平気だ…。いや、平気ではないが誰かに見られると

 すこぶる不都合だ。……もう少しなら我慢できる」

 

 六陣は自分が肩からかけているショルダーの中にいるロゼフに、声をかけた。

彼はどうやら船酔いをしたらしく顔色からは判断できないものの、具合の悪そうに

ぐったりとしている。

 

「動物になっても本来の性質は変わらへんのやね」

 

「お前らは普段からあんなのに乗っているから慣れているだろうけど

 ボクは昔からこういったものには乗らなかったんだよ!」

 

 あんなの、とは精霊鳥のことだろう。ハルパゴズへ行くためには船に乗らなければ

ならず、そのため精霊鳥も近くの港町にある精霊鳥の預かり場へ預けてきたのだが、

いくら足の速い彼らでもアルトシェルからは早朝から出発して午後まで掛かったのだ。

 そのときからすでに気分は優れていないようだったが、船に乗ったために余計

気持ち悪くなったのだろう。

 

 

「何か飲み物買って来てやるよ、少しは楽になるだろ」

 

「あぁ、そうしてもらえると助かる…」

 

 

 ぐったりとしたロゼフを見兼ね、時雨は飲み物を買いに行った。それを見つつ、

遊井は六陣の方を見やる。

 部署が変わるとお互いの仕事のせいですれ違いも多くなり、何かと一緒にいら

れる時間が少ない。いくら今回の件が特例だったとしても、彼女にとっては幸いと

なっていた。

 

 

「こうして一緒に任務をするのも久しぶりだね」

 

 同じことを考えていたのか、六陣は遊井をみてそう言った。

 

「何だ、お前らは昔から仲が良いのか?」

 

「そら仲良いで。もう5年の付き合いにはなるからなぁ」

 

 時雨も含め、三人は同じ部署の部隊班への入隊試験を同時にパスし、

入隊してからの仲だ。それからの何度かの異動で接触する機会は減ったものの

その仲の良さはあれ以来変わっておらず、むしろ深くなっている。

 

 

「そんなに経つんだっけ?全然そんな感じはしないけど…」

 

「そら経つやろ。…確かにあそこにおったら時間の感覚なんて無くなってまうけどな」

 

「ふふ、確かに」

 

 毎日山積みになっている仕事の量に、長期で機関外での任務。そんな生活を

続けていると、時間を気にしている余裕などなくなってしまう。

 特に、特殊部隊班に昇格され、任務の難易度や量が上がっていくと尚更だ。

こうやって今迄の時間を遡る暇さえ、そう与えてはもらえない。

 

 

「でも、あんたが変わってへんくてほんま良かったわ」

 

「私だって。昔に戻ったみたいで懐かしい」

 

 

 

 汽笛が船から上がると、もう前方には港が近づいていた。開放的で明るい町並みが、

そこからでも見て取れる。だが、この任務が決して上手く進むことがないということも

再確認しなければならない。なぜならば、ロゼフを連れ去ろうとした彼らはきっと

このときを見計らい、今度こそ戦闘に至るかもしれないからだ。

 

 水面(みなも)は静かに揺れていた。