また一人、SASに仲間が増えた……

 

 

SAS──Special Ability Secret allied force──第二章・3

 

 

 

「おめでとう!合格したって!」

 

 そのことばで飛虎はハッとした。いまだに自分が試験に合格した自覚がない。

 

「だって私、何も……」

 

「この試験は君が能力者だということが分かればそれでいいんだよ」

 

 正面に座っていた試験管がにこやかにそう言う。

伏せていた一丸もチラッと飛虎を見るように目を開けた。

 

 

「じゃあ…本当に受かったの?」

 

「ああ、おめでとう、今日から君もここの一員だよ」

 

 その言葉を聞き、飛虎は喜びを噛み締めた。

それと同時に気も抜けた。こんなに簡単に試験が終わるとは思わなかった。

 

 

「じゃあ僕は先に行かせてもらうね」

 

 その言葉と一緒に試験管は席をたち、すぐに退室する。

六陣と飛虎もそれに次ぐようにその場をあとにしようとしたが

飛虎は視線を感じ振り返った。そこには未だに所定の位置に

一丸が伏せたままでいる。視線を感じた気がしたのだが

気のせいだったのか、そのまま飛虎は六陣に手を引かれるようにして退室した。

 

 

「お疲れ様でした、合格おめでとうございます。飛虎様はこれより

 本機関への登録手続きがありますので酒星様は先に部署にお戻りくださいませ」

 

 部屋を出たところには先ほどの受付嬢が待機していた。

彼女は試験管から結果を聞かされたらしく、二人をみるとニコリと笑った。

 

「ありがとう。じゃあ私は先に戻るね、またあとで会えたときに」

 

「うん、本当にありがとう。お姉ちゃんのおかげだよ…

 あたしに居場所ができたの」

 

 そういいはにかんだ飛虎に、六陣は優しい笑みを浮かべた。

そして別れのあいさつをすると、その場をあとにした。

 

 

 

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 SAS機関のほぼ中央にそびえ立つすべての部署とその他の機関の揃う

総合機関は、真上から見上げればドーナツ型の円の中に10m弱の空間を

残し、空洞の無い円が中に納まるという不思議な形をとっている。

ドーナツ型は総合部署塔、真ん中の塔は中央塔と呼ばれている。

 六陣はその建物の中に入ってきていた。

 

 中央塔へ入るためには総合部署塔を抜けて直接中央塔の

一階まで行かなければいけない。というのは、総合部署塔には

特例時以外での各階への移動が制限されているからだ。

非常階段はあるものの、そこは普段は立ち入り禁止となっているために

通れない。そのために総合部署塔の3階に用事のある六陣も自然と

中央塔から3階まで上がり、そこから総合部署塔へと繋がっている

東西南北、四方に伸びる架け柱を通らなければいけなくなる。

 

 

 中央塔3階から架け柱を通って速報部へ向かう途中

厄介な人物が彼女を待ち受けていた。

 

「いよーう!酒星、久しぶりやんなー!」

 

「お久しぶりです、酒星さん」

 

 そこにいたのは拷問・尋問部第二部署に所属し

異名を古春(こはる)ととる遊井 捺弥(ゆい なつみ)と

司令部第一部署に所属し異名を香(こう)ととる

香神 陸(かがみ りく)だった。

 

 遊井と六陣は10歳のときに部隊班で一緒になったとき以来の

親友であり、今では六陣にとって大切な存在だ。

 セピア色の肩につくかくらいの長さの髪を上の方でふたつに縛っている。

瞳はそれよりも色の濃いココアブラウンで、少々釣りあがっている。

 その口調は標準語と少々異なり独特だ。それは

彼女がガルシア国の西都、フィッツウォーターの出身だからだ。

 彼女の能力はエゼルのモンスターフォースである。

その小柄な体とは裏腹に力の能力の中でも上級に入るほどの怪力持ちだ。

 

 もう一人の少年、香神は六陣が速報部第二部署に

勤めていたときに同じ部署で働いたときの仲間だ。今年の

異動で二人はそれぞれ別の部署へ行くことになったが今でも

会えば挨拶はするし、時折仲間同士で会うこともある。

 第二部署にいたときには遊井もちょこちょこと顔を出していたために

二人は面識がある。いや、今では六陣以上に彼と仲が良いと

言っても過言ではないのだろう。

 外にはねているアップルグリーンの髪に帽子を深く被っている。

遊井に同じく香神も私服だった。

 

 

「二人でこんなトコで何やってんのよ…」

 

「何ゆうとん、アンタを待ってたに決まってるやん!」

 

「そうですよ、結構待ってたんですからね?」

 

 すっかり脱力しきった六陣に構わず二人はそう続けた。

あくまであくびれてはいないような二人に六陣はなす術もない。

 

 

「こんなところでサボってる時間あるなら仕事しなくちゃ」

 

「ひかたさんから酒星さんに伝言を頼まれたからここで待っていたんです」

 

 呆れた様子の六陣に香神はそう言った。

ひかたとは速報部の第二部署長を務め、香神や六陣の元上司である

森田 京二(もりた きょうじ)のことだ。彼の部署は各地で

情報収集へ回っている第一・三部署に比べて機関内での

仕事が主なので多分そのことについてなのだろう。

 

「行くの嫌だな……」

 

「まぁ、そう言わんで行って来や。うちらに会えたのもアイツのおかげなんやで?」

 

 きっと二人は彼女の帰還日を聞きに速2へ訪れていたのだろう。

あそこではそういった情報も整理し、誰がどこにいるかもちゃんと把握して

迅速に対応できるようになっている。にひひと怪しい笑みを浮かべながらも

遊井はそう言った。彼女はひかたと仲が良い──というより彼はこういう単純な奴の

扱いが上手いから上手く利用されているのだろう

──ために今でも速二内へ出入りをしている。

 

 

「仕方ない…行ってみますか」

 

「あは、ほな行ってらー」

 

「ではこれで失礼します」

 

 二人にそういうと、六陣は先に続いている道へと歩いていった。

遊井はそれを見送りながらあくびをした。

 

「昨日も結局残業で遅かったんですよね?そんなに心配なんですか」

 

「アホ、当たり前やろ…。ウチらとは違ってあいつはいつも

 危ない土地で命張ってんねん」

 

 もう姿の見えなくなった六陣に、遊井は呟いた。

 

「心配なら、そういえばいいんじゃないんですか?」

 

「分かってて言ってんやろ?アンタ、本間性悪や」

 

「それはどーも」

 

 心配なら心配と言えば良い。だが、それはいえない。

心配のことばをかけて逆に相手を心配にさせるのは良くないことだと

いうことを、みな語らずとも暗黙の了解となっているのだから。

いつ何があってもおかしくない、だからこそのいらぬ言葉である

 とくに六陣のように安全な機関から離れて危険な現地に赴いている者にとっては。

 

 遊井の嫌味のようなその言葉に嫌な顔せず、香は逆に

にこりと笑ってそれを返した。

 

 

 

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「速一の酒星です。只今帰還し訪問しました」

 

「あら、いらっしゃい。久しぶりね」

 

 扉の前に立ち、ドアが開くのと同時にそう言い礼をしたのに対し

扉の一番近くにいた青嵐(セイラン)が返事を返した。

 腰あたりまでの長い髪が、彼女が動くごとにサラリと揺れる。

大人な雰囲気の漂っている落ち着いた感じの女性だ。

 

「部長いらっしゃいますか?」

 

「あぁ、呼ばれたんでしょ?奥の部署長室で缶詰にされてるわ」

 

 さっきあなたの友達がたずねてきていたから、という言葉に

六陣は先ほどの二人を思い出した。

青嵐と一言二言交わすと六陣は行きなれた速二の部署長室へと向かった。

 

 

 部署長室へ入るにはロックキーを解除する必要がある。

と言っても自分の持っているIDカプセルをセンサーに反応させるだけだ。

そうするとロックキーの中にカギを開けた人物のIDが記録されるようになっている。

そのような設備が機関内にはいくつかある。

 

 ロックキーが解除され扉が開いたところで六陣は早速中へと入った。

 

「酒星です、只今任務から機関しました」

 

「随分時間がかかったんだね、待ちくたびれたよ」

 

 一礼して中へ入るとそこには予想したとおりひかたがいた。

書類に目を向けながら六陣にそう返してくる。

 

「あなたが派遣してきた奴らに捕まっていたモンで」

 

「伝言、ちゃんと伝えてくれたんだ、よかったよかった」

 

 伝言が来なければここに来ることも無かったんだという眼差しをおくっても

ひかたは一向に気にする気配がない。

 書類から目を放すと六陣に向かって手招きをして自分の方へと

呼んだ。不審に思いながらも近寄ると、ひかたは自分が今見ていた

書類を見せた。

 

「これは…?」

 

「昨日狭雲から来たメール。怪しい女が同日中に首都内に侵入したらしい。

 首都に入っておいて何も起こさないはずがないからな…。

 調査部の奴等と話し合ったんだがその女の捜査はこっちが担当に

 なっちゃったからすぐに向かって欲しい」

 

「そんなことになってたんですか、何も聞かされていませんでした…」

 

「はは、アイツは何も言わないからなー」

 

 狭雲のことを親しげに『アイツ』、などと呼ぶものは少ない。

それは彼が幹部生だということもあるが、一番の原因は彼が

他人とあまり馴れ合わないタイプの人種だからだ。

 それでも六陣や遊井のように好いてくる相手には

冷たくあしらったりはしない。それは、彼が本当は優しいからだと彼女は考えている。

 

「てゆーことだからこれから行って欲しいんだよね、場所は……」

 

 そのとき、先ほど話をしていた青嵐がノックもそこそこに入室した。二人は

彼女へと目をやる。

 

 

「部長、お話中に申し訳ありません、司令部の方から通達がありました。

 登録名『左手首の女』がアルトシェル内中央柱(ちゅうおうばしら)の

 南位置研究所内に侵入しました!」

 

 

 

 

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