「部長、お話中に申し訳ありません、司令部の方から通達がありました。

 登録名『左手首の女』がアルトシェル内中央柱(ちゅうおうばしら)の

 南位置研究所内に侵入しました!」

 

 

 

SAS──Special Ability Secret allied force──第三章・1

 

 

 

 

「左手首の女…?」

 

「さっき話した怪しい女。狭雲からのメールにそう書いてあったから

 そのまま使わせてもらった」

 

 

 追跡のためには登録名が必要になるのだが、今回の場合は

相手が何者か分からないために特徴を登録名に使用しているようだが

普段はその人物の名乗る名前を登録している。しかし、そういったものは

殆どが偽名もしくは第二の名前で、本名を明かす者は稀といっていい。

 それは、犯罪者や裏側に属する人間、一部の高等職官なら誰もが

『名の縛執(みょうのばくしゅう)』という業があることを、SAS機関の

存在は知らずとも、能力だけは知っているからだ。


 

 ひかたに説明された六陣は、それ自体の意味は掴みかねたが

左手首、という重要らしいポイントも一応記憶していくことにした。

 

「ていうわけで早急に向かって欲しい。狭雲は……?」

 

「狭雲月様にも連絡を入れておきましたのでレストプレイスの方で

 合流できるかと思います。」

 

 伝令にきた青嵐はひかたの質問に答える。

それを聞いて六陣もすぐにその場をあとにしようとした。

退室するときに一応礼をしていく。部署長室のドアがしまると署内にいた

人達への挨拶もそこそこにすぐに機関内を出てレストプレイスへと向かった。

 

 

 

 

 

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「おせぇぞ、酒星」

 

「ごめん、ちょっと部署長室で引き止められてて…」

 

 レストプレイス前にはすでに時雨がいた。

ズボンのポケットに手をつっこみ、壁に寄り掛かって

待っていたのを、彼女が来ると第一声にそう告げた。

 

 

「ひかたのところに寄ってたのか?」

 

「古春と香くんに言われてね…。後が怖いから」

 

 疲労度を全開にして言う六陣に時雨は呆れ顔になった。

六陣が建物前に着くと、休む暇もなくすぐに施設内に入っていった。

前方を歩く時雨は六つある分岐点のうち、一番左の道へと入っていった。

そこは一般に移動用生物の査定や新しく入ってきたそれの検査をするところだ。

広い場所に出ると、隅にある上へと続く階段を登っていった。

 

 その先には特例でのみ使用できる飛行生物の檻が存在していて

使用するには特殊部隊班の部署長以上の地位の者の許可が必要だが

時雨がいるのでそれは問題がない。ある檻の前までたどり着くと

彼は檻のロックを自分のIDカプセルで開けて中へと入っていった。

 

 飛行できる生物のため、それぞれの檻の天井は開閉自由になっている。

その天井ガラスのカギを開けると時雨は六陣に乗るよう促し彼女の前に

自分も乗った。馬の姿を取り、ヒヅメの周りに長い毛の巻ついている

その生物の名前は、総称で飛翔精霊 天翔馬(てんしょうば)と呼ばれている。

 

 

「はいっ」

 

 そう言い時雨は握った手綱を引っ張りながら馬の胴を足で蹴った。

すると馬はそれにひと鳴きし、地を蹴った。

 すぐに建物の上へと上がりそのまま天へと駆けていく。

 

「わー、気持ちいい!」

 

「騒いでると振り落とされるぞ」

 

 初めて乗る天翔馬の気持ちよさに声を上げた六陣に

時雨はピシャリと言い放つ。この勢いなら本当に落とされかねないと

思ったのか、六陣はすぐにおとなしくなった。

 

 少しすると六陣の持っているIDカプセルに

コールが入り、彼女はそれを手に持ったまま応答した。

 

「なんでしょうか?」

 

「ここからまっすぐ言ったところにある南位置のゲートを開けてもらったから

 そこから入るように狭雲に言ってくんない?」

 

 連絡を入れてきたのはひかただった。

アルトシェルはカクテルグラスを地面から突き刺したような形の

柱7つで構成されていて、それぞれに上空からの進入を防いだり

空調の調節をするなどという処置のため目には見えづらいゲートが

結界で作られている。そのためにいくらSAS機関でも首都管理局に

連絡を入れておかないとゲートは開放させてもらえない。

 ひかたはそれをしてくれていたのだ。

 

「聞こえたよ」

 

「あれ、お礼の一言もないのかよ。とりあえず伝えたからこれで切るぞ」

 

 時雨がそういうとひかたはすぐに回線を切ったようだ。

六陣はカプセルを元の位置へ戻すと前方をチラッとみるために体を横へずらした。

 

 

「もうそろそろ急上昇するからしっかりつかまってろよ」

 

「え?…ってわー!!」

 

 

 そう言うと同時に天翔馬は一気に上へと駆け昇った。

あまりの急激な角度に六陣は時雨の腰周りにまわした腕をきつく絞めた。

それも中々上昇はやまない。腰が浮きそうになりながらもなんとか

足を天翔馬の胴にまわして掴まっていると、ようやく上昇が終わり水平に戻った。

 頭の中がぐるぐると回っているような気分になっている六陣に構わず時雨は続けた。

 

「着いたぞ、オルトシェルだ」

 

 目の前には中央の一際大きな柱の周りに

さらに6つの柱が周囲を囲む特殊な形の都市が広がっている。

その光景は、ガルシア国内で一番古くから栄える都とは思えぬくらい

神聖さを保ち、神々しく見える。各地で独特さを持つ国内の地理や気象は

稀なる形状を持つ街を生み出すが、ここの形もまたそれに比例する以上に

奇異であることに違いない。

 

 

 

 

 

「ここだな」

 

「うん、間違いない」

 

 天翔馬が首都内の中央柱に入ってすぐにそこは見つかった。

南のゲートから入ったために、同じく南に位置する研究所が近かった分もある。

入り口の近くに爆発したような跡が残っており、普段は賑やかなはずの周囲には

すでに人がいない。首都内を張っていた軍が市民を非難させたのだろう。

だが、民間のみならず軍人の姿さえまばらなのは、それが“特例”である

SAS機関の隊員の出動だからだろう。

 

 

 だがそれ以前に、六陣はその建物のことを知っていた。

彼女はここアルトシェルの出身でもあり、この研究所とも

深い関わりがあるからだ。

 

 すぅっと息を吸うと後ろにいる六陣に顎で

合図をし、覚悟を決めたように言った。

 

 

 

 

 

「入るぞ」

 

 

 

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