そこに待ちかまえていたものは…

 

 

SAS──Special Ability Secret allied force──第三章・2

 

 

 

 中は薄暗く、室内の状況を正確に把握しきれない。

天井の照明には銃弾の跡があり、破壊されているようだった。

二人は拳銃を装備しセーフティをはずしていつでも撃てる状態にした。

 

二人の銃は同じタイプだ。

ダブル・アクション・リボルバーになっており、

一発ずつハンマーを起こす必要がないために連射が可能となっている。

だが時雨のものは改造してあるために六陣の持っている拳銃とは少々違う。

 シルバフレームで作られているそれはバレルが長く、

威力がより高められている。

 

 

「狭雲、その右の扉を入った奥に研究室があるから

 そこに研究員が捕らえられているかもしれない」

 

 六陣のそのことばを信じ、右の扉から用心深く入っていく

時雨には、彼女の言葉に確信がある。それは

彼女はこの建物のことをよく知っているここの関係者の一人だと

いうことを、既に知っているからだ。

 

 

 敵の気配を伺うが、遠い。

きっとここよりも奥にいるに違いない。

二人は机の並べられている研究所をさらに奥へと進んだ。

実験中のビーカーやモルモットは放置されていて、机の上の

ビーカーがひとつ割れていた。実験途中に投げ出されたもののようで

化学変化により内からの力で割れたようだった。

 

 暫く歩くと扉の奥の少し広くなっている部屋へ出た。

そこには予想していたとおり、研究員たちがロープで縛られていた。

 六陣は見覚えのある中年の女性を見つけると、近づいて

口を縛っている布をはずしてやった。

 

「蒔唯ちゃんじゃないの!助けに来てくれたのね」

 

「えぇ、こっちに連絡が入ったから。軍には手に負えないって」

 

「死者を出したくないから、の間違いなんじゃないのか?

 二人組みだったんだが、相当ヤバい目ぇしてたぜ」

 

 時雨が縄を解いた20代の男性がそう口にした。

 

「ねぇ、お父さんとお母さんはどこ?」

 

「所長はちょうど外出中でいなかったのよ、

副所長なら二人組みに連れていかれてしまったわ」

 

 そう、この研究所は六陣の両親が勤めているところだ。

ここでは遺伝子や生体の実験が進められている。

特に精霊獣に関しての規制は厳しく、ここのように国からの

許可を得てそれを研究しているところは多くないので

狙われてもおかしくはないはずなのだ。それを理解しておきながら

簡単に進入できてしまうここの無防備さはあまりにも危険すぎた。

今回のような事態が起こることも十分有り得る場所であるにも関わらずだ。

 

「その二人組が何の目的でここに来たかは分かるか」

 

 二人の会話を聞いていた時雨がそう言う。

女は言いづらそうにしながらも観念したらしく白状した。

 

「えぇ…。2日前に、この研究所で喋る化学生物の実験が成功したの。

 詳しいことは所長、副所長しか知らないし、私たちも実験の内容さえ聞かされて

 いなかったけれど、どうやらそれを狙ってきたらしいわ。その獣が入っている檻の

パスワードは蒔唯ちゃんのお父様であるここの所長しか知らないから

 あなたのお母さんを人質に連れて行ったのよ」

 

 女は他の研究員の縄を解くのを手伝っている六陣にそう言った。

その言葉に手を止めて、泣きそうな顔になりながらも六陣は振り向いた。

 

「最悪な状況だな」

 

「えぇ…でも父さんが帰ってくるまではなんとかなりそうね」

 

「その部屋はどこにある?」

 

 

 時雨は再び女に問うた。

それに対し、あちらだ、と指をさして教えた女に小さく礼を言い

二人はその更に奥へと進んでいった。

 

 

 そこは地下に続く階段だった。幸いにもここの照明だけは壊されていない。

カツカツと、靴の音が狭い通路に木霊する。

螺旋状になっているために前の様子が分かりにくいため

二人は注意しながらその階段を下りていった。

 

 扉までたどり着くと、時雨は六陣へと振り返り

小声で合図を出した。それと同時に六陣は集中するため目を閉じる。

 

 彼女の持っている特殊能力は、ギフの分類に入る

『ヘゲル』というものと、通常よりも優れている耳だ。

ヘゲルの能力はさて置き、耳の能力は『解放状態』にすれば、

最大半径一キロメートル以内でキャッチしたい音の周波数だけを

特定して聞くことや、超音波を使って暗黒でもその場の構造を把握できる

能力を持っており、それを使える者は一般に『キャッチャー』と呼ばれている。

 

 

「…人がいる。お母さんともう二人。…多分、男と女。

男女ともに硬度のある武器を手にしていないけど気をつけて」

 

「分かった。酒星は後衛にまわって援護だ」

 

OK」

 

 それだけ言うと、後ろで構える六陣を気にしつつ時雨は銃を片手で持ち扉を開けた。

 

 

 

「ひゅー、来るのが遅いんじゃないの?SASのお兄さんたち」

 

「あら?蒔唯ちゃんじゃないの、ママを助けに来てくれたの?」

 

「あなた、自分の身を理解しているの?」

 

 開けた先に現れた不可思議な光景に、時雨と六陣はあっけに取られた。

部屋のど真ん中に置かれた机の上に男と女が座り、六陣の母は

その近くに立ち、暢気にトランプをしていたのだ。

2人を茶化した男に反応し、六陣の母が振り返り

危機感を持っていない六陣の母に女がつっこんだというところだろうか。

彼らの奥には黒い檻があり、そこには何かが入っているようだ。

 

「お母さん、何やってるのよ」

 

 呆然と突っ立っていたが、我に返った六陣は時雨を押しのけツカツカと

彼らの元に歩み行く。それを後ろから時雨が止めようとしたが

いくらその状況とはいえ六陣も残り3メートルというところまで近寄って留まった。

近づくには、これが限界の距離だ。

 警戒されている2人(+母)は、それでも暢気にトランプゲームを

続けている。青年──おそらく時雨や六陣と同じくらいの歳だろう──が

フォールドーっと場にそぐわない声を出してトランプを机の上に投げ捨てた。

 トランプの組み方や今の言葉からすると、どうやらポーカーをやっているようだ。

 

「あら、また?それじゃあつまらないじゃない」

 

「だっていくら『賭けないで賭けをやる』っていってもこれじゃあ負け同然だし」

 

 このおばさん強いし、と口を尖らせて言葉を向けられたのは

他ならぬ六陣の母だった。その言葉にふふっと笑ってみせるところは

場の危機感をちっとも理解していないという証拠でもある。

 

「ふふ、それに4枚目から降りなくても…どうなるかまだ分からないのよ?」

 

「いんや、絶対負けるって、コレ」

 

 六陣の母の言葉に青年は返す。その声も

大した覇気は感じられず、どこか戦意を失くさせるようなものだ。

 

「ちょっとお母さん!!」

 

「あのねぇ、もっと静かに出来ないわけ?折角勝負を…」

 

「うるせぇんだよ、何が勝負だ。てめぇらの目的はアレなんだろうが?」

 

 あまりの現場に、ついに苛々が脳天まで達した時雨は話を切り出した。

アレ、と言ったところであごを彼らの後ろの黒い檻へと向ける。

 

 

「あら、だって焦っても仕方が無いわよ、この檻のパスワードは

 彼女の旦那しか知らないっていうし、檻を破壊しようとしたら化学生物の

 首輪の赤外線センサーに情報が受信されて死んじゃうって言うし…?」

 

 そういうと女はワインレッドの艶やかな髪を揺らし、六陣の母へと目を向けた。

それに対し彼女はむーっと膨れて反抗する。

 

「だってしょうがないじゃない、ようちゃん──六陣の父であり、母の夫──

ったら私にまでパスワード教えてくれないのよ?

 まるで私の立場が台無しだわ、ここの副所長だっていうのに…」

 

 そう言い唇を尖らせる母を見る六陣は、あまりにも惨めな気分に陥った。

助けをもとめるように時雨に視線を送るが、彼もまた自分を呆れた表情で

見てくるので、情けない気分はとうてい晴れなかった。

 

 

 

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